ひびのあわ

消えないあぶくはどこにある

成功、失敗に意味はないぜ

 「遍く挫折に光あれ 成功、失敗に意味はないぜ」

               amazarashi/秋田ひろむ 

 

 

 アリストテレスはこう説いた。

 ”幸福のために最も必要なものは美徳である。しかし幸福には、富、健康、見た目の良さなど様々な要素が関わってくる”

 一方、ディオゲネスはこう説いた。

”幸福のために必要なものは美徳のみである。その他の要素は善く生きることへの妨げでしかない”

 

 どちらが正しいのだろうか。もちろん、どちらにも問題がある。

 

 アリストテレスの考え方には、どれだけ恵まれていても満足できず、さらなる富を求めてしまう。いわゆる”快楽のランニングマシン”の上を走ることに繋がる。

 一方ディオゲネスは富を毛嫌いし、一生を桶の中で過ごしたという。誰がそんな生活を真似できるだろうか。

 

 その二つの考え方を昇華させたのがストア哲学だ。ストア哲学では、富などの要素は”好ましい無関係”と呼ばれる。一見矛盾した言葉のように思えるが、その言葉はアリストテレスディオゲネスの問題をうまく解決している。

 

 ”好ましい無関係”とは、幸福において真に必要なのは美徳だけだが、富などの他の要素もあっても良い、という考えだ。つまり、幸福の要件は美徳であって富ではない。だが、美徳を損ねない範囲での富の追求は認められるということである。

 

 これは経済学で「辞書式選好」と呼ばれている。例えば、自分の娘を売ろうとする親はいないだろう。たとえどれだけのお金を積まれても。

 この場合、「娘」は美徳で、「金」は富だ。富は好ましいものだが、本当に大切なものとは無関係である。”好ましい無関係”とはそういうことだ。反対に、病気や貧乏などは好ましくない無関係となる。

 

 この考え方の何が素晴らしいかといえば、失敗した時の励ましに、また成功した時の警鐘になるということだ。大きな失敗をしたとしても、それも幸福とは無関係なものなので気にしなくていい。ビジネスで大金を稼いでも、それは好ましいことではあるが真の幸福とは無関係だ。真の幸福は常に美徳の実践とともにある。

 

 そう捉えれば、成功、失敗に意味はない。そう言えないだろうか?

 

 最初の言葉は、秋田ひろむが菅田将暉に楽曲提供した”ロングホープ・フィリア”の一節だ。この言葉の真意を考えた結果、ストア哲学に行き着いたが、こんな考察では彼の計り知れない洞察力に近づいてもいないのだろう。

 

 最近、挑戦をする前にはこの言葉を繰り返す。成功、失敗に意味はない。成功、失敗に意味はない......